記憶はなくても感情は溜まる?~感情残像の法則~

 皆さん、こんにちは。
 今週も引き続き、認知症の法則について。今日は「感情残像の法則」についてです。


感情残像の法則って? 

 読んで字のごとく、「感情が残像のように残る」ことを言います。認知症の方というのは記憶障害は必ず生じるのでその出来事ややりとり、会話の内容などは忘れてしまうのですが、その時に抱いた「感情」は残るという特徴があります

「感情は残る」とは?

 例えばある時Sawaが認知症のAさんに対して服のボタンを掛け違えているのでそれを直そうと声をかけてAさんの服に触れたとします。
 でもAさんにはそれが伝わらなくて、 首元にSawaの手が来たのでいつも身に着けている高価なネックレスを盗られる!と思い「何するのよ!(怒)この泥棒!」と怒りました
 もちろんSawaにはそんなつもりはないのでそこは否定しますが、AさんはSawaに対して(何するのよ!)という「怒りの感情」や不快感が湧きあがっています。 
 その後Aさんは記憶障害があるので、「ボタンを掛け違えてSawaが声をかけたこと」「Sawaが自分の首元に手を伸ばしたこと」「Sawaに対して(何するのよ!この泥棒!)と怒ったこと」はすぐ忘れますが、これらの一連の出来事は忘れてもAさんの中には(何するのよ!)という感情」だけは残ります。
 そうなるとどうなるか?というと次にSawaと会ったAさんは前回のSawaとのやりとりは綺麗さっぱり忘れているのですが、Sawaに対する(何するのよ!)という“怒り”と”不快感”」はAさんの中に残っているので、その次にSawaを見たAさんは「Sawaイコール”(何するのよ!)”」と”Sawa””ボタンの件でSawaに抱いた怒りと不快感”がセットになり「Sawaは不愉快な思いをさせる奴」(つまり「嫌な人」)と認識をする。 

 或いは、ある時Bさんはお風呂に入りたくないのに無理やり入らされて(Bさんにとっては)服を剝がれたり、いきなりお湯を頭からかけられり怖い思い、嫌な思いをしたとします。その為、いったん入ってしまうとその時は気持ちが良くて湯船では笑顔になるが、Bさんの中にはお風呂での「”怖い””無理やり嫌なことをされた”」という感情が残っているので、お風呂に誘って入れようとする度に”お風呂””お風呂で抱いたマイナスの感情”がセットになり不快感を露にして拒否をする、怒る

 簡単に言うとこんな感じです。

 また、認知症の方は思い込みやこだわりが強くなり、言えば言うほどそれに執着してしまう、という特徴(「こだわりの法則」と言います)もあります
 その為、こちらがよかれと思って言ってることでも当事者には「口うるさく怒る人」「ガミガミ、ガミガミ感じの悪い人」と映ってしまい必死になればなるほど、関係が益々悪化する、後々の関わりにも影響し悪循環する、といったことにも繋がっていきます。

 つまり一度「こいつは敵!」「嫌な人!」「○○は不快なもの!」と認識をされ、そのように覚えられてしまうと大変なことになってしまうんですね...。 

 その為、介護する側にとっては認知症の方と初めて接する時、初めて排泄やお風呂やその他諸々のお手伝いさせて頂く時、というのはものすご~く気を使う場面でもあるのです。 
 そして、この感情というのは残るだけでなく、蓄積もされていきます。ですので、ファーストコンタクトは勿論、その時その時の関わりや声のかけ方もとても重要になります。
(因みに認知症の方は声や表情などからこちらの感情を読み取る力にもとても長けています。ですのでイライラなども伝わりやすいのです。)  

 でも、 

 この「感情」は先の例で挙げた「怒り」や「不快感」ばかりではありません。嬉しい気持ちや安心感、良い感情も同じように残るし蓄積されていきます。 

 ただ...
 
 人ってどうしても「嫌な感情」の方が引きずりやすいんですね。

 だから先のBさんのようにお風呂で浸かったら気持ちが良くて笑顔、でもお風呂に入れようとすると激しく拒否をする、といった現象も起きるのですが...

 良い感情を残すにはどうしたら良いのでしょうか? 
 
 これは基本ですが、まずは否定しない。例えば入浴拒否に対して、明らかに臭っていても「汚れていないし、綺麗だ」という本人に対して「いや、臭っているし入りましょう」とかストレートに「お風呂に入らないと不潔だから」なんて言ってはいけません。「臭っている」や「不潔」というキーワードだけをキャッチして本人は傷つけられた気分になります。そしてこういう場合は「お風呂に入ってもらわないと!」と必死になればなるほどこじれますから、「汚れていない」と言われたらそれを受け入れて一旦引き下がって時間を置くのも一つの方法です。
 
*「どうせ忘れるから」と無理にことをすすめたり、乱暴な物言いになるとその対応による”不快感”が残って次に響きます。
 
 或いは入浴剤を入れて「温泉に行きましょう」と言って浴室まで案内したり、銭湯に行く習慣があれば銭湯風にお風呂セットを用意したり、「一番風呂どうぞ」とか「お湯加減見てもらって良いですか」とお風呂場まで来てもらってきっかけを作ってから声掛けをするなど、誘い方を工夫することで入ってもらえる場合もあります。

 次に、言葉でのコミュニケーションによる理解が出来なくて拒否に繋がっているような場合。
 話し言葉は上手く理解出来なくても、中期ぐらいまでの方は書いた文章は読んで理解をすることは出来る方、というのが割といます。ですので短い言葉ではっきりと区切って伝えても難しい場合は紙に書いて見せるとそれを読んで理解してくれる場合もあるので、「伝わらないな~」と思ったら書いてみる、それも難しければイラストで見せるのも一つの手です。 
 
*ちなみに前回お話しした「自己有利の法則」。こちらはとにかく「人の話しを聞かない」「話しかけていても遮るように自分ばかり話す」といった形でも現れます。この場合も紙に書いたものを読んでもらうとスムーズに伝わることがよくあります。
 
 次に感謝する褒める。例えお鍋をコゲコゲにしても、そのお料理をするという行為に対して「ありがとう♪」。濡れたままの洗濯物を取りこんで畳もうとしていても「取り込みしてくれてありがとう♪あとはやっておくね」とバトンタッチをするなど、日頃から感謝の気持ちを伝えましょう
 また褒めることも良い感情を残していくことになります。特技があればそれを活かせる場面を作って「流石!」という風に持っていっても良いし、着ている洋服を「いつも素敵ね」とか「おかあさんはいつも○○ですごいね。私も見習わないと。」などなんでも良いので褒めていきましょう。
 こういった「この人は私を認めてくれている」「この人は私を必要としてくれている」と思ってもらえるような関わり方が認知症の方の安心感や信頼関係に繋がっていきます。

 それ以外にも共感や同情、事実でなくても相手の言い分を認めること(最初の”否定をしない”ですね)や謝ること、親近感を持ってもらえるような関わり、声掛け。こういったことが良い感情の積み重ねになっていきます。

 認知症が進むと家族の顔も分からなくなったり、毎日接している相手でもその度に「はじめまして」状態になったり、その人の中では別の人間になっていたり色々なことが起こります。特に家族にとっては顔を忘れられてしまうのは辛いものだと思いますが、記憶は失っても感情は残ります。顔が分らなくなってもその人との記憶はなくても認知症の方は「この人と楽しい時間を過ごした」「この人は安心できる人」ということは覚えています
 「楽しい」「嬉しい」といった気持ちや安心感を積み重ねて一緒に穏やかな時間を過ごすヒントになれば、と思います。 

 それでは今日はこの辺で。

 

No comments:

Powered by Blogger.